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「人類の起源」の誤解 [01先史の世界]

教科書では「人類は猿人・原人・旧人・新人の順に進化した。」と説明されているけれども、「進化」の意味には注意しなければならない。「人類の起源」という場合の人類とは、「化石人類」のことであって、現在の私たち、現生人類(ホモ=サピエンス)の起源、ということではない。また「起源」の時期についてもどんどんさかのぼる傾向にあるが、その前提として「ヒト」の定義を考えておく必要がある。ヒトの「進化」はどんなふうだったのだろう。そもそも「ヒト」って何だろう。
ヒトの定義と特徴:人類は生物学上の分類では「哺乳綱霊長目ヒト科」に属する。大型類人猿と近い関係にあり進化の過程で分化してきた。現在地球上に生存している人類はすべて同一の種(交配できる生物集団)であり、人類学上はホモ=サピエンス(現生人類、または新人)という。人類の特徴は、人類学的には「直立二足歩行」と「犬歯の消滅」が目安とされている。またある時期から脳容積が大きくなり、知能を発達させ、道具や言語を使用するようになった。そして他の動物には見られない、文化を継承・発展させるることによって「歴史」を形成してきたのが人類である、といえるのではないだろうか。
人類の進化:人類にはわれわれホモ=サピエンス以外に、絶滅してしまった「種」があったことが化石の発見と研究によって判ってきた。それらの化石人類には猿人、原人、旧人があり、新人の最初の時期も化石として見つかっている。現在の化石人類の研究によれば、猿人、原人、旧人はそれぞれ前の段階に比べて、より「進歩」した形態と能力を持っていたが、単線的に「進化」してきたのではなく、それぞれ複雑に分化、絶滅、置換、進化を繰り返してきた。特に最近の分子生物学の進歩によって化石人類のDNA分析が進んだ結果、旧人(ネアンデルタール人)と新人(現生人類、ホモ=サピエンス)の関係はその順ではなく、新人の方が早く登場したと言うことが判ってきている。
人類の出現した年代人類の出現年代は、最古の化石人類である猿人の出現からとされるが、その年代はどんどんさかのぼっている。2007年版山川出版社『詳説世界史』(新版)では約500万年とされるようになったが、前年の2006年版までは約450万年前とされていた。450万年前という数字は1994年に発見された、ラミダス猿人の年代から割り出されたものである。旧版では400万年前、さらにその前は250万年前とされていた。これは現在までの急速な研究の発展により、特に21世紀に入って新たな発見が相次いだためである。現在では最古の人類は約700万年前にアフリカに出現というのが定説となりつつある。
最新の人類起源700万年前説:最新の研究によれば、最古の人類化石として、約700万年前の「サヘラントロプス=チャデンシス」が報告されている。発見地が従来の人類化石が多数出土している東アフリカの大地溝帯からかなり離れたサハラ砂漠南部の中央アフリカのチャドであったことが人々を驚かした。サヘル(サハラ砂漠の南を指す地名)で発見されたチャドのヒトの意味で学名が付けられた。発見された人骨はほぼ完全な頭蓋骨を含み、直立歩行し犬歯が退化しているなど明らかにヒト科のものであったが、周囲が砂漠であり、火山堆積層がないため直接確かめられず、同時に出土した動物化石が他でいつ頃の地層から出土しているかで年代特定が行われたため、700万年前という数値には慎重な意見もある。また2000年にはケニアで発見されたオロリン=トゥゲネンシスは約600万年前、2001年にエチオピアで発見されたアルディピテクス=カダバは約570万年前とされている。これらの相次いだ新発見の化石人類と従来の猿人の関係は諸説あって不明だが、猿人の登場年代が一挙に倍近くさかのぼることは確かなようだ。
猿人、原人、旧人、新人という進化過程は見直されている:教科書には人類の進化の段階「猿人」「原人」「旧人」「新人」の4つがあり、脳容積の増大や直立していく様子が図になっている。これは誤解しやすい図であって、この4段階を「人類の進化段階」と理解しがちであるが、そうではない。この4種類の化石人類は継続的に進化した(続いた)のではなく、別な種類の人類であって、しかも「新人」以外は私たちとは関係のない、“われら以外の人類”なのである。これらの人類の間には、途中に、「絶滅」や「置換」が起こったとされており、各段階の関係は必ずしも明かではない。また最近では、ネアンデルタール人とホモ=サピエンスの出現順序も全く逆であったことが判明した。そのため現在では猿人、原人、旧人、新人という化石人類の4分類は人類学会では用いられなくなっている。
現生人類の登場:現生人類(ホモ=サピエンス)(新人とも言う)の発生についても、かつては各地の原人たちが、それぞれの地域で新人に進化したとする多地域進化説がとられていたが、現在では分子生物学などの発達により、現生人類アフリカ単一起源説が有力であり、アフリカから全世界(アウト・オブ・アフリカ)に生活の場を広げたと考えられている。またホモ=サピエンスの登場は教科書などでは代表的な新人クロマニヨン人の年代として4~3万年前とされているが、最近の研究では約20年前(つまり旧人よりも早く)にアフリカに登場したという説が有力になっている。このように人類の起源について新たな知識が増えたのは、人類学の発達と並んで分子生物学(DNAの分析)の研究が急速に進んだためである。

※参考文献
瀬戸口烈司『「人類の起原」大論争』 (講談社選書メチエ)1995
赤沢威『ネアンデルタール人の正体―彼らの「悩み」に迫る』 (朝日選書)2005
海部陽介『人類がたどってきた道―“文化の多様化”の起源を探る』 (NHKブックス)2005
三井誠『人類進化の700万年 (講談社現代新書)』2005
内村直之『われら以外の人類 猿人からネアンデルタール人まで』 (朝日選書 783)2005



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