アッシリア帝国 オリエントの統一 [0101古代オリエント]
古アッシリア アッシリアは現在のイラク北部、ティグリス川とシリア砂漠に挟まれ、小アジアとメソポタミア南部、イラン高原方面とを結ぶ交通の要地を言う。アッシリア人は前3000年紀の末にアッシリア(アッシュール)地方に都市国家を作り、イラン高原の錫(青銅器の原料)の交易を独占して中継貿易で栄えた(この時期を古アッシリアとも言う)。前15世紀ごろミタンニに服属したが、前12世紀頃に滅亡したヒッタイトから鉄器製造技術を受け継ぎ、また鉄鉱石の産地アルメニアを抑えたため次第に有力となった。
新アッシリア オリエントの分裂時代にも国家を存続させ、前9世紀には鉄製の戦車と騎兵隊を採用して、次第に強大となった。これ以降を新アッシリアともいい、前8世紀の終わりごろ、サルゴン2世、次いでセンナケリブ王のもとでシリア、フェニキア、バビロンをつぎつぎと併合しイスラエル王国を滅ぼした。さらに前663年エジプトに侵入してそれを征服した。首都のニネヴェをはじめ、ニップール、コルサバード、アッシュールなど多くの遺跡が発掘され、楔形文字の解読による「アッシリア学」がイギリス、フランスで盛んである。
episode 戦車の発明 「前15世紀から14世紀にかけて、オリエントのどこかで、戦車の設計に注目すべき変化が生じた。それはそれまで車台の中心にあった車軸が、車台の後縁に移されたことで、それによって御者はバランスをとりやすくなり、馬の気管も締め付けずにすむようになった。このオリエントの戦車は、ミケーネ文明を経てギリシア・ローマに伝えられた。」また、騎兵隊の誕生も、アッシリア王アッシュール=ナシル=バル二世(在位前884~859)の時代だったと言われる。<平田寛『失われた動力文化』1976 p.92 p.95 岩波新書 による。>
episode ニネヴェの図書館 アッシリア帝国のアッシュール=バニパル王が、首都ニネヴェに建設したもので、世界最古の図書館とされている。メソポタミアとエジプトを統合し、広く西アジアを支配したアッシリアは、帝国内の産業や経済を掌握するために、王立図書館と言っているが、図書館というより情報センターと言うことであろう。もちろんそれらの情報は、粘土板に楔形文字で書かれているものであった。1894年に発掘さした遺跡からは、2万5千枚(あるいは4万枚とも言う)の楔形文字が刻印された粘土板が見つかった。それらはすぐに大英博物館に送られ、アッシュール学の学者たちによって解読作業が行われた。そこから「アッシリア学」といわれる分野が発展している。
アッシリアの公用語 アッシリア帝国での公的記録は、楔形文字で記されるアッカド語と、アラム文字(アルファベットに近い)で記されるアラム語で記録された。左の図のように、書記は二人一組になり、一人は粘土板をもってアッカド語を記し、もう一人は羊皮紙にアラム語を書いた。右の書記がもっているのが粘土板と楔形を押しつけるためのペンであり、左の書記のもっているのが羊皮紙と筆である。なお、書記になるのは宦官も多く、ここでは左側の書記が宦官である。この図は前8世紀の壁画の模写でルーブル博物館所蔵。<渡辺和子『世界の歴史〈1〉人類の起原と古代オリエント』1 中央公論社 1998 p.355>
※この図が2005年の東大入試で用いられた。
出題例
問(2) 文字の種類や書体と、書写の道具や材料との間には密接な関係がある。図版A(上掲)は紀元前8世紀のアッシリアの壁画に描かれた書記の図で、おのおのの左手に粘土(a)とパピルス(b)を持ち、2つの公用語で記録をとっている。それぞれの材料に記されてた文字の名称を答えなさい。
解答・解説(クリックしてください)
解説 アッシリアの公用語がアッカド語とアラム語の併用で、それぞれ楔形文字とアラム文字で書かれていたことは、教科書や用語集にも出ていないので(b)は難問。(a)は粘土板に記すのだから楔形文字しか考えられないが、(b)はパピルスに記すとあるので、エジプトの神聖文字(ヒエロティック)が簡略化された民用文字(デモティック)とも考えられる。教学社の赤本(『東大の世界史25年』の解答もそうなっている。しかし、セム系3民族の一つのアラム人がダマスクスを拠点に西アジアの内陸交易に活躍し、そのアラム文字が前9~8世紀に西アジアに広がったこと、そしてそのアラム人が前8世紀にアッシリアに服属したことを知っていれば、ここはアラム文字の方が正しいことがわかる。ただし、東大入試ではパピルスとされているが、上掲の『世界の歴史』1では左の書記が持っているのは羊皮紙とされている。東大の出題者はパピルスと考えて、アッシリアはエジプトも征服したのだから、民用文字を正解としたのかも知れない。旺文社の全国入試問題正解ではアラム文字が正解となっている。実際にどちらが正解とされたのかは公表されていない。
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